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【1945/昭和20年】
東京大空襲、沖縄決戦、そして原爆投下、終戦。
特攻出撃の命下る。前夜は眠れなかったのだろう、学徒出陣以来の戦友は、真っ赤な目で微笑んだ。そして、感慨深げに誉(軍隊用のたばこ)を大きく一服,二服。朝の空に吸い込まれる紫煙を追いながら「貴様は死ぬな、俺の分まで生き抜け」−吸いかけを私に渡すと,振り向きもせず爆装の愛機へ。それが最期だった。
言葉もなく涙で見送った私は、後に続く機会に恵まれぬまま、どうやら戦後を生き抜いた。あの世で彼とマイルドセブンを吸い分けるのが夢だけれど、私には彼が判っても、彼は老醜の私を判ってくれるだろうか、心配でならぬ。
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