代表 黒滝 弘
住所 〒169-0051  新宿区西早稲田1-23-6
TEL 03-3203-3634

 目の前を都電荒川線が通り、近くには早稲田大学の緑豊かなキャンパスが広がる「早稲田たばこセンター黒滝」さん。生まれも育ちも早稲田というご主人の黒滝弘さんは、戦前から長きにわたり、この地で店を切り盛りしてこられました。今回は、まるで早稲田の街を温かく見守る“お父さん”のような存在のご主人に、街の歴史やお店の運営について、お話をおうかがいしました。

創業して何年目になるのですか?

都電荒川線の目の前にあるお店

 もうかれこれ80年になりますね。もともとは昭和3年に、私の父がここで「せともの屋」を始めたのがきっかけなんです。私は今年で73歳になりますが、小さい頃からよく店の手伝いをしていましたね。私が学校から帰ってくるなり、両親から「あれを手伝え、これを手伝え」と言われたのを覚えています。「勉強しろ」なんて言われたことはなかったですからね(笑)。当時の子どもたちはみんなそうでしたよ。

当時の早稲田は、どんな様子だったのですか?

愛煙家のためのパイプも販売

 今でも思い出すのは、月に3回ほど開かれていた縁日ですね。早稲田大学の正門から、神楽坂へ続く道に夜店が出るんです。その通りを着物姿の学生たちが歩いて行くんですよ。あれは、実に風情がありましたね。 当時この辺りは、原っぱばかりでしたが、学生向けの下宿は多かったんです。その頃店で扱っていた“せともの”は、ほとんどを下宿に販売していたので、戦争が始まるまでは、かなり繁盛していたんですよ。

戦時中、こちらのお店は大丈夫だったんですか?

 いいえ。この店も家の資産も、すべてが焼けてしまいました。むろん私の家だけでなく、この辺り一体が焼け野原となってしまいましたね。当時、私はまだ中学生でしたが、なんとか店を建て直さなければと、親父を必死に手伝いました。
 戦後の食料難のため、学生に食事を提供できなくなった下宿のほとんどが店じまいをしたため、私の店で扱っていた“せともの”も販売先がなくなって、とても大変でした。今思えば、あの頃が一番辛かったですね。ですから戦後は、“せともの”だけでなく、“おもちゃ”や“たばこ”を取り扱ったり、学生相手の雀荘や、食器の卸販売なども始めたんですよ。

さまざまな商売を手がけておられたのですね

お客様が“帰ってくるように”と願いを込めて

 そうですね。親父の跡を継いでからは、家内と一緒に店を切り盛りしてきました。ですが昭和56年に、私が脳溢血で倒れてしまいましてね。しばらくは体が思うように動かず、病院でリハビリをする毎日だったんです。たばこ専業に変えたのはそれがきっかけですね。あの時は家内にもずいぶん苦労をかけました。私が入院中は、家内が店と病院を往復しなければならなかったので、店も半日しか開けられなかったんです。それにもかかわらず、常連のお客さんたちが買いに来てくれて、売り上げがまったく落ちなかったんですよ。あれは嬉しかったですね。

お客さまから信頼を得ている理由は?

早稲田商店街で発行している金券

 商売をするうえで、親父の代からずっと守ってきたことは、お客さまに“うそをつかない”ということ。たとえば、私が勘定を間違えて釣り銭を多くいただいたとします。そんな場合は、次回いらっしゃった時に必ずお返しするようにしているんです。逆に、お金をもらいそこなった場合は、それはおさいせんだと思って請求しません。まさに、“損して得取れ”ということですね。だから近所の方からは、『あそこの店は真面目だ』と評判なんですよ。
 その積み重ねが信頼となって、親子何代にもわたって贔屓(ひいき)にしていただけるような店になるのではないでしょうか。

今ではすっかりお元気になったようで、よかったですね

ご主人の功績を讃えた賞状の数々

 まだ少し不自由はありますが、おかげさまでステッキ1本でどこにでも行けるようになりました。昨年は、友人たちとイタリア旅行にも行ったんですよ。
 私は今、新宿文京組合の理事長、東京都連合会の常務理事、そのほか民生委員などもしているので、日中は家内に店を任せて出かけていることがほとんどです。それも元気の秘訣かもしれませんね。それから何と言っても楽しみなのが、生後1カ月と3カ月の初孫たちの相手をすること。まだ幼くて私の顔も判りませんが、これからしっかりと成長を見守っていきたいと思います。

周辺案内

早稲田大学 西早稲田キャンパス

 来年創立125年を迎える早稲田大学。緑が眩しい銀杏並木、重厚で歴史を感じさせる建物…。西早稲田にあるキャンパス内に一歩足を踏み入れると、そこは神聖な空気に包まれています。なかでも早稲田大学創設者である「大隈重信」の像は、際立った存在感を示しており、思わず前で立ちすくんでしまうような迫力。彼の創設の意志は、確かに今もここに息づいているようです。
 構内は広く一般にも開放されているようで、木陰で休むビジネスマンや、ベビーカーを押しながら散歩するお母さんの姿なども、目にすることができました。

住所:東京都新宿区西早稲田1-6-1
※JR山手線(高田馬場駅 徒歩20分)/西武線(高田馬場駅 徒歩20分)/
  地下鉄(早稲田駅 徒歩5分)

編集後記

 ご病気を克服され、今ではすっかりお元気になったご主人。作務衣(さむえ)姿がとてもよくお似合いで、どっしりと貫禄のある姿が印象的でした。この街で生まれ育ったとあって、地域に対する愛情は人一倍。以前、早稲田商店街の会長を務めていた頃には、神田川沿いに何本もの桜を植樹されたのだそうです。そのおかげで、今でも毎年春になると、美しい桜が町内の人々の目を楽しませてくれています。今後も、早稲田を見守る“お父さん”として、ますますお元気でご活躍していただきたいですね。